心刃(このは)舞う2《完結》(T:123 M:薫、いづみ&美沙斗 J:シリアス?)

※お話の都合上、前回のいづみ視点から第三者視点に書き方を変えます。


《はい、そうです。よろしくお願いします》
――ああ、相川くんがうちに電話するなんて変だと思ったらそげんこと――
 神咲薫は難しい顔をしたまま寮の電話を切った。
「薫様、どうしたのですか? お顔の色が優れませんが……」
 御架月は不安げな子犬のような顔で初代継承者を見つめている。
 薫は暫し思考を巡らせる。
 うちが関わるべきではなかこと……じゃないのはたしかとね。
 知り合いの命に関わる大事件を見てみぬふりなどうちには出来ん。
 かといって、さざなみの皆を巻き込んではいかん事とも思う。
 うーん……
 薫が迷っていると御架月ではない声がかけられた。
「命に関わるって、誰が?! まさか知佳か?!」
「私ここにいるよ〜」
 いきなり血相を変えて薫に詰め寄って、リビングの格闘ゲームでリスティ
をけちょんけちょんにしている知佳につっこまれたのは、夜の練習を終えて
霊剣十六夜片手に十六夜さんと玄関から入ってきた耕介だ。
「じゃあ出かけてる真雪さんと美緒?!」
「あ、そうじゃなかです。風芽丘の――」
 もはや薫が無意識のうちに思考をひとりごちていたなんて事は些細なミステ
イクだ。
「みなみちゃん?!」
 堂々と一灯流の三連撃ならぬ我流三連続ボケをかませるほど狼狽している
耕介の姿に薫は半ば諦めたように決心した。
「もう話さなければなかね……」
 少々ややこしい事態なのでどこから話すべきか迷っていると、
「ただいまなのだ〜」
「おっ、こっちはちゃんと電気通ってるんだな。耕介〜。練習終わったんなら
ビール付き合えよ♪」
「翠屋のシュークリームもあるのだ♪」
 迷いあぐねていると『ハリウッド版グレートガイアー』の鑑賞に映画館へ出
ていた美緒と真雪が帰って来た。
「停電って何かあったんですか?」
「翠屋シュー買ってまゆの車に乗ろうとしてたときにいきなりぷつんと看板と
か電気がみんなブラックアウトしたのだ」
 ああ、それは多分相川くんが言ってた事で起こったとね……
 天災もしくは人災でもなければ予告なしの停電はありえない。
 落雷や台風といった天災は起きていないからその停電は人災だ。
「多分その停電も関係あります。電話は翠屋にいる相川くんからだったんです」
 ここまで事情がわかれば彼の言葉をそのまま伝えれば良いと判断して、薫は
年長者の耕介と真雪に事情を話した。

「ふーん、あの子等そんな事に首突っ込んでたんだ。これで耕介が『あ、それ
ならほっとけば?』なんて言ったらこれで四コマ漫画にオチが付くなぁ」
「俺ぁそんな事言うほど薄情じゃないッス!」
「……とにかく、今のうちらは言伝どおりにここで待つしかないでしょう」
 薫、耕介、真雪の三人は寮を抜けた高台で待機していた。
 薫の手には御架月。耕介には十六夜。真雪には薫の『一刀流』の方で使う
練習刀がある。
「ふーん、そうやってボクたちをのけ者にするんだ」
「お邪魔しまーす」
 何かの遊びにまざるようにやって来たのはリスティと知佳だった。
「「なっ、来るなって言ったのに、どうして?!」」
 耕介と真雪の声がハモる。
「知佳のえげつないエリアルに付き合うのはもう飽きたから」
「――じゃなくて、寮も停電したし、この分だといづみちゃんがもうそろそろ
来るでしょ? それで、いづみちゃんの目的が相手の人の説得なんだから、
わたしたちが居た方が良いかなーって」
「あっおまえ等盗み聞きしてたな?!」
 耕介の指摘に、リスティは「玄関で話てればリビングにも聞こえる」、知佳
は「友達のピンチだもん、ほっとけないよ」と返していた。
 真雪はというと、以前の大喧嘩と知佳の人助け癖に半ばあきれて、
「まったく。いつからさざなみは『よろず解決屋』に成ったんだかなぁ!」
 と苦笑いした。
 真一郎経由のいづみの言伝によればとりあえず臨戦体制を取ってもらって、
剣客の行動を気配で抑止してくれとのことだった。

 シュッ!
 ガキン!
 あまり大きくはない金属音でさざなみ寮関係者は押し黙った。
 切迫した状況が竜巻か台風かといった感じで押し寄せてくる。
 遠目に見える木の上で、いづみの姿がわずかに見えた。
 彼女は必死に訴えていた。
 心の底から叫んでいた。

****

「弓華には関わるな! あいつはもう生き方を変えてるんだ!!」
「殺して来た人間を捨て置いてぬくぬくと生きるというのか!」
「違う! 警察にも協力してる! それをあいつの贖罪にさせてやれないの
か?!」
「あんな生ぬるい組織に任せられるものか! 人殺しの業はそう簡単に消せ
はしない!」
「……それで、おまえも人殺しの業を背負いつづけるのか……?」
「私には、それしか残っていない……」
 言葉と言葉、刃と刃が互いにぶつかり合いう。
 心と心が空しい結論で散っていく。
 剣客――美沙斗は立ち止まった。
 気の迷いで止まったわけではない。
 いづみの行く先に剣気が三つ。異質な気配が二つあったからだ。
 いづみの作戦どおり、これでとりあえず話し合う状況は作れただろう。
「それは嘘だ……」
 手裏剣、小刀……
 クナイ、飛び針……
 晩春の蒼い木の葉の代わりに、心を乗せた刃が散る。
 月夜に照らされるその白銀の心刃は、儚い残光を残して闇へと消える。
「生き残りはあんただけじゃないだろう? なのにあんただけ血にまみれるの
か? 他の生き残りはそんなことを望むのか……?!」
 恭也と美由希……寄寓にもアルバイト先で知り合って、鍛錬を共にした仲の
二人……少なくともあの二人は絶対はそんなことを望まないはずだ。
「私の願いだ。生き残った子供に、そんな真似はさせられないだろう……?」

 カッ!

 そのとき、強烈な光がいづみと美沙斗を照らした。

「御剣!」
 自動車の助手席から真一郎が走り寄っていた。
 美沙斗はすでに身を隠している。
 自動車を見るが、運転席のドアも開け放たれて無人だった。
「真一郎さま…どうしてここに?」
 わけがわからずそう訊ねるしかなかった。
「日雇いの翠屋デリバリー。なんだかよく分からないけど、陣内さんっていう
事情に詳しい人が翠屋に来ていたんで乗せて来てもらったんだ。小鳥は行きが
けに家に帰ってもらった」
 事情に詳しい人?
 火影よりも弓華いついて詳しい人なんて知らない。
 もとより、今までの話に決着がつかなければまた狙われるようなことに成り
かねない。
 いづみは二人が姿を消した方向へ跳んだ。

 ブーン!

 エンジンのような音を立てて美沙斗は射抜の発動を止められた。
 啓吾の両手にはイングラムM11に刃渡り40センチほどのバイアネット
(銃剣)を強引に取り付けた珍妙な武器が二挺ある。
「まあまあ、そう殺気立たないで下さい。私は取引がしたいだけです」
 美沙斗は「香港の……」と呟いて射抜の構えを更に深くする。
「私の仕事先では兎弓華が提供した情報を元に更に深い『龍』の情報を獲得し
ました。どうです? 私と弓華、どちらの情報を貴女は選びますか? 弓華を
――というのでしたらこの場で逮捕しますが」
 美沙斗は黙ったまま――殺気と共に突如として消えた。

 射抜!

 萬火刀勢!

 神速に消えた美沙斗を銃弾が追い、小太刀とバイアネットが火花を散らす。
「『弓華直属の支部は私どもで鎮圧した』『新たな拠点を私たちは見つけて
いる』という言葉は、このヘンテコな剣で信用に足りますかな?」
 美沙斗は間合いを取り、しかし構えをとかずに口を開いた。
 そして短く一言答える。
「わかった」
「そこに居るかわいい忍者さんの安全も保障してくださいね」
 美沙斗は頷き、陣内氏はいづみに『ここから離れるように』と目配せ
して、闇に溶け入るように姿を消した。
 二人とも闇を歩くのがとても上手い……

****

「ども、翠屋デリバリーです!っていうか、ホントは俺と陣内さんが
買ってきました」
 停電が復旧したさざなみ寮でいづみは一休みさせてもらうことにな
った。
 真一郎と、取引に成功した啓吾も当然同行している。
 桃子さんの助言「さざなみのお客さんがシュークリーム買ったから、
クッキーとかの方が良いかも」というわけでクッキーと紅茶の茶葉を
お土産として持ってきている。
 さざなみ寮関係者は「あー終わった終わった」とか「暴れそびれた」
とか「戦わないのが一番よかよ」「そうそう」と、それぞれの感想を
述べている。
 薫がいづみに何かを言おうとしたとき、
「避難場所みたいにしてしまってすみませんでした」
 と、頭を下げられて、一瞬閉口した。
「……まあ、分かってるならもうよかよ」
 言おうとしたことを先に言われてしまって薫はそう頷いた。
 真雪が買った翠屋シューと真一郎のクッキー。そして紅茶が煎れら
れて深夜のティータイムとなっていた。
「あの人にもこんな暮らしが出来る日が来ると良いのに……」
 いづみは呟いた。
「世渡りは苦手そうな人ですからね。先は長いかもしれませんが、い
ずれは……ね」
 後ろで縛った黒い長髪に丸眼鏡をかけた男性――陣内啓吾。
 表と裏の顔を持つ飄々とした男は、耳と尻尾のある愛娘との再開で
文字通り猫かわいがりをしている。
 人外魔境という二つ名もあるが、さざなみの団欒はどこまでも暖かい。

****

「お茶が、うまい」
「ええ、本当に」
 長い夜は彼女――美沙斗の方だったのかもしれない。
 本当に長い夜を経て、今、相川いづみは高町家の縁側にて美沙斗と
茶を飲んでいた。
 一口、二口……

「今になると子供の大切さは計り知れないものだと身に染みます」

「もし、私の家が襲われたなら私もあのときの貴女のように成ってい
たかもしれない」

 口にしながらいづみは語った。

「でも、本当によかったですね。恭也くんと美由希ちゃん立派に成って」

 美沙斗は黙って頷いている。
 戦場に咲いた華のような、はかなくも深く優しい笑顔。
「あなたはもう現役を引退……?」
 不意に美沙斗から訊ねられ、
「子供が小学校へ行くまでは専業主婦でいるつもりです。鍛錬は欠かし
ていませんけどね」
「なら――」
 美沙斗が何かを言おうとしたとき、道場から二人の人影が見えて、い
づみたちの視線は自然とそちらに向いていた。
「おつかれさまでした」
「やっぱりこういうのもよかね」
 手合わせを終えた恭也と薫だ。
 いづみは立ち上がって、
「一休みしませんか?」
 と席を譲る。
 美沙斗もそれに倣って恭也に譲っていた。
「『なら――』何でしたっけ?」
「――手合わせ、願えますか?」
 いづみと美沙斗、二人は終始笑顔だった。
「もちろんです。たまには現役の技を体感しないと勘が鈍りますから」
 ふっ。
 いづみは美沙斗の飛針を受け流しながら道場の屋根に飛んだ。
 着地と同時に小刀が二人同時に放たれて散る。
 美沙斗が跳ぶ。
 対空の射抜。
 それを躱したいづみは美沙斗に向けて急降下する。
 対地の射抜。
 それを円架でさばく。
 いづみは攻撃の手数こそ少ないが強い。
 神速の領域に入る美沙斗にもついて行く。
 こと『護る』事に関しては御剣の刃は超一流だった。

「なんか、思い出します」
「何のこと?」
「二人とも笑いかたが継承式の美由希みたいだ」

 それは長い夜が明けた宴。
 安堵と歓喜の心が刃に舞う。
 戦闘スタイルは違っても、平穏の二文字を護るのが今の二人。

 そこに買い物からレンと晶が帰って来た。
「なんやごっついバトルやなぁ」
「それを楽しんでるんだから二人とも、すごい……」

****

 その日の夕食はいづみが作ってみることになった。
 メニューはもちろん『相川スペシャル』。
「から揚げにキムチは邪道かもしれないけど、こういうのもきっとありです」


                          END


※どうも、はじめまして。今回初投稿させていただきました松葉蘭です。
 一回読みきりの短編にしようかと思ったら20000バイトちょいとオーバー
 してしまったのでニ分割させていただきました。
 一回目の投稿では横スクロールバーが出てしまって読みにくかったと
 思いますが、今回は大丈夫でしょうか?
 でも、分割で引っ張っておきながらあっさり解決してしまったので
 かなり竜頭蛇尾なお話になってしまいましたね……
 ちなみに「相川スペシャル」はおいらの発案でよく食べます♪
 キムチの代わりにカレー粉でもなかなかいけますよ♪
 でもこの味付けってとらハで一番ウケそうな人は真雪さんですね……
 『耕介スペシャル』で真雪さんに出すべきだったかな?
 おつまみとしても結構いいセン行くと思うのですよ。
 あとオリジナルだったのは啓吾さんの萬火刀勢ですか。
 ネーミングに『る○剣』入ってますね(苦笑)
 武器もヘンテコだし(苦笑しまくり)
 よろしかったら感想ください!
 今度はさざなみの皆さんを書きたいなぁ。

by.松葉蘭